オカルト雑誌、「ゴースト」 深夜、市街中心部から離れた埠頭の一角にある使われなくなった倉庫。 その使われなくなったはずの倉庫に明かりがついているのを本誌記者は見た!  亡霊の仕業か!?単に若者たちの溜まり場になっているだけなのか?  次号、記者が徹底取材! 「ったくよー。なんでこういう雑誌とかは若者=悪みたいな感じでまとめるのかねえ 世の中には善いやつも悪いやつもいるのにさあ」 男が酒に酔いつつ上機嫌そうにその雑誌をパンと手で叩く。 彼の周りには20人ほどの男女がいて、笑いながら酒を飲んだり雑誌を読んだりと思い思いのことをしている。 これだけなら雑誌に書いてあったような若者達の溜まり場に見えるが、おかしい点が1つだけあった。 彼らの足元には大量の雑誌、酒類、菓子パンなどがコンビニをいったい何軒買い占めたのかというほど置いてあった。 そして何より不審な点は、彼らの中心にいるさっきの男の近くに置いてある袋の中に、大量の札束がはいっていることだった。 隅のほうで新聞を読んでいた男が言う。 「ねえリーダー」 ん?と中心にいるリーダーと呼ばれた男が返す。 「その話は前も聞きました。それは置いといて、この記事見てくださいよ」 彼が持っている新聞にはある犯罪組織についての記事が載っていた。 「盗賊(バンデッド)」 強盗を主として詐欺や密輸などで金を集める犯罪組織であり構成員、拠点などは一切不明。 これまでの被害総額は5000万円超で、被害は関東中心部のみに集中している。 この件に関して、警視庁長官は昨日の記者会見で犯人グループの逮捕につながる有力な情報の提供者に謝礼金を出すと発表した。 なお最近、コンビニでの商品大量奪取事件が頻発しており「盗賊(バンデッド)」との関係を調べている。 被害にあったコンビニの店員たちは口を揃えて「万引きを追いかけていったら商品が消えていた」と証言している。 「ふぅん。俺たちも有名になったもんだねえ。お茶の間デビューってか。」 そういうと周りにいた者たちが笑った。 「ん?でもこの被害総額5000万って、ほとんどが先月の宝石店に入ったときのやつじゃねーか。」 「それにしても秋津が考えたこの方法、すごいですね。」 秋津というのはつい1週間前に「盗賊(バンデッド)」に入った15、16歳くらいの少年の名前だ。 特徴としては、いつも笑っているということが1番目に挙げられるだろう。 彼は18から26歳までの「盗賊(バンデッド)」の中では最年少にあたる。 最初、彼が「盗賊(バンデッド)」に入りたいと言って押しかけてきたとき叩き出そうとしたが、彼がどうしてもと言うので、アルコールが入っていたせいもあるのだろう、リーダーは面白半分で「入団テストだ。何やってもいいから50万集めて来い」と言ってしまった。 1時間後、彼は金の入った袋とともに現れた。 半信半疑のメンバー達がテレビをつけると、近くのの本屋に16歳前後の少年が押し入り、売上金の50万円を奪って逃走中というニュースが流れていた。 多少後悔し始めたリーダーが彼を使い走りにしようかと思い始めた矢先、秋津が凄まじく有能だということが判明した。 毎日、上納金です、と笑いながら言いつつどこからか金を持ってくる、先ほどの新聞にも載っていたコンビニからの商品奪取の方法を考える、など。 ちなみにその方法とは、あらかじめ客がほとんど来ないコンビニを探しておき、足が速い者がレジの前の商品を万引きする。それを店員が追いかけていった後、 リーダーはつぶやいた。 「・・・つーかあいつ何者なんだよ・・・。」 そのとき倉庫の入り口の扉が開いた。 警察が来たら見張りが知らせる手はずになっているので、心配はいらない。 かなり大きなダンボール箱を載せたカートをガラガラと押しつつ少年――秋津がこっちに来た。 「リーダー、小麦粉もって来ましたよー」 リーダーが言う。 「・・・お前、いつもニコニコって言う言葉を本気で地で行くよな・・・本当に」 「あはは。もう癖なんですよー」 前に彼に対して 1、「結」 うららかな春の昼下がり。と、言えば聞こえはいいのだろうが、全然うららかなんかではない人達がここにいる。          ☆       ☆ 一条豊花は考える。 教室の外で他の女子生徒とにこやかに話している彼女自身の助手(少なくても対外的には)を横目で見つつ、 (あー今日は期間限定のおかしの販売期間の最終日っていうことをハルカから聞いたんだけどなー。いつになったらこの拷問部屋から脱出できるんだか・・・) (そう思うんだったら問題に集中しろ) (勉強なんてしてないよー!エレンが教えてくれるって思ったんだもん) (いつまでも私に頼ろうとするな) (えー無理―) 豊花は自分(・・)達(・)だけ(・・)に(・)聞こえる声にそう返した。 なんとなく豊花は自分の兄の方を見た。 予想どおり爆酔中。  ちょうどその時チャイムが鳴った。 ☆       ☆ 刈屋紫苑は考える。 いい感じの「悪意」の素を見つけたから呼びに来たのにあいつは数学の補習なんかを受けている。この追試でも落ちてさらに時間をとられたらどうしてくれようか。まあエリカ(・・・)がいるから大丈夫か。 そんなことを考えつつ、周囲に群がってきた女子生徒に適当に(それでいてにこやかに)返事を返した。 ☆         ☆ 「いや無理無理無理無理!あんなのできるわけないじゃん!!京介だって寝てたしさー」 「あれはいつものことだ」 「じゃあ私も出来ないのはいつもどお・・・」 いつのまにか目の前に数人の生徒と紫苑がいた。 「じゃあ先生も来られたようですし、僕はこの辺で・・・」 「さっきから何回も聞いてるんですけど、豊花とどういう関係なんですかー?」 「先生と助手の関係ですよ。すみません。時間が押してるもので・・・」          ☆         ☆ 「で、追試はできたか?」 「えーと・・・」 「できなかったらどうなるかはわかっていような?」 「もっもちろんできたに決まってるでしょ!」 「いや一問も解けてなかった」 「ちょちょっとエレン!そんな冗談はいらないわよっ」 「ほう・・・・」 豊花は話題を変えることにした。 「えーと・・・あっそうだ今日はどこ行くの!?」 「近くの銀行。そこで強盗が起こる。」 「ふーん」 紫苑は未来形(・・・)で言った。だが豊花も疑問を持たない。当たり前(・・・・)だから。 「そして犯行グループがかなり大きいようだ」 「えっと・・・。どーせいつも通りあんたが全員土下座させて終わりでしょ?だったら私要らなくない?」 「ふむ・・・。それもそうだ・・・」 「でしょ?」 「だがその汚名をかぶ・・・もとい名声を得るのはおまえ自身だ」 「え?」 ☆ ☆ 「疲れた・・・」 今は6時。豊花は寄宿舎に戻っている。(紫苑はいつのまにか消えていた)  30分前に起こったことは今思い出しても・・・いや思い出したくもない。 (明日からもう人前を歩けない・・・) あのとき銀行に入って「金を出せ!」とお決まりのことをやった強盗たちを紫苑が挑発し(「もちろん先生のお言葉です!」)、逆上した強盗たちが豊花に向けて発砲しようとした。その瞬間、紫苑が彼らの後ろに回りこんで全員蹴り飛ばした。 そこまではいい。 だがしばらくしてパトカーで現場に急行してきた警察官に強盗たちは言った。確かに言った。 「銃を撃とうとした瞬間にあそこにいる女が俺達の後ろに回りこんでものすごい力で蹴り飛ばしたんですよ。おかげで仲間の一人が気絶しちまって・・・ん?おい!どうした!?しっかりしろおおおおっ!!」 「救急車っ!いや霊柩車ああっ!」 人質もどき(強盗自体は未遂なので)たちもこっちを見てこそこそ話をしている。 「なんだあの女すげー」 「オリンピックに出られるよ」 「オレの職業、カメラマンなんだけどさ、今撮った5枚くらいの写真、会社信じてくれっかなぁ」 そのときの警察官のこっちを見る目が化け物を見る眼だった、ということもはっきりと覚えている。 (はあ・・・) どーせまたSLP(・・・)を使ったのだと思う。 「あの馬鹿パソコン・・・」 力が回復してきたとはいえ、面白半分で力を行使するのは止めてほしいと思う。被害がくるのはこっちなんだし。 「まあ・・・いいけどね」 ハルカに頼んで銀行に警察が張り込んでいて強盗は全員現行犯逮捕と(・)いう(・・)こと(・・)に(・)してもらおう。 「ねえ、エレン」 相方(・・)はおいてあった本を読んでいた。 「悪い。全然聞いてなかった」 「もー・・・」 「ところでこのBL本、おまえが買ったのか?」 「買うわけないでしょ・・・。そーいえばこないだサツキが面白い本が手に入ったから貸してあげるとか言ってたけど・・・それだったの?」 ☆ ☆ 前にSLPとはなにかと紫苑に聞いてみたことがある。彼は言った。 「あえて言うなら、超能力の一種。ただし超能力との違いは、何でも可能だということ。不可能なことは考えの外にあること、かつサーバーのコードの中にないことだけだ」 「考えの外?サーバーのコード?」 「考えの外とは・・・まあ普通に思考の範疇に含まれていないことだな」 「意味がわかんない」 「具体例を挙げると、お前がテスト勉強をしているときに眠くなったらどうする?」 「寝るにきまってるでしょ」 「単純だな」 「それしか思いつかなかったんだから、別に・・・」 「そう。それだ。